ことこと便り

岡山県津山市(旧久米町)の山・川などを拠点に活動する小さな森のようちえん

入園・体験の詳細は、 ことことオフィシャルサイトをご覧ください

育てることは、“運・鈍・根”に尽きる

木工芸における初の重要無形文化財保持者(人間国宝)となった木漆工芸家 黒田辰秋氏(1904-1982)が、染織作家として出発した頃の人間国宝 志村ふくみ氏に送った言葉があります。

「工芸の仕事はひたすら“運・鈍・根”に尽きる」

”工芸の仕事は鈍い、「鈍」なものですよ。 だけどコツコツコツコツ弛まずやる。 誰の助けも受けずにやる。これができるかと。 もうできるも何も、それしかない。
「運」はね、他にいろんな選択肢があるわけじゃなく、 自分にはこの道しかないと思い込んで、 ただひたすらやりなさいと。
「根」は粘り強く、一つ事を繰り返し繰り返しやること。 工芸は画家のようにパッとインスピレーションがおりてきて 筆を走らせるのではなくコツコツコツコツやるものだと。 鈍も根もコツコツですね。 なぜコツコツが大切かといえば、 材料と親しくなるからです。 そのためには時間がかかるんですよ。”

この言葉、色んな事に当てはまる素敵な言葉だなーと 森のようちえんを育てながら思います。津山で初めての森のようちえんを開園した。全てが初めての事なので、当然 誰も手とり足とり教えてくる人は周りにいない。これができるかと。 もうできるも何も、それしかない。そして、自分にはこの道しかないと思い込んで、ただひたすらやる。失敗してもコツコツやる。森のようちえんは、僕一人だけで育てる事はできません。森のようちえんを共に育てるのは、子ども、スタッフ、地域の大人や自然。それぞれと親しくなるには、時間がかかる。親しくなるだけじゃなくて それぞれが一番輝いて混じりあうにはどうしたら良いのか?簡単には答えの出ない旅は、果てしなく続きます。  


志村ふくみさんの言葉に森のようちえんに取り組む自分を当てはめてみたけど、うーん。やっぱり通じるなー。

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致知』2013年11月号
               特集「道を深める」より

【記者:染織作家として出発されたのはおいくつの時でしたか?】

三十一歳の頃でした。

当時は二人の小さな子供を抱えて生きていかなきゃいけないし、 織物なんてしたって食べていけるわけがない。 だからもう、早くやめて東京に戻り、 職業婦人になれと周りの者は言っていました。 私もそのつもりでいったんは帰ったんですが、 寝るともう、ウワーッと夢に出てくるんですよね。 やっぱり織物をやろうと決意して また近江に戻ったんですが、 母とも親しかった木工作家の黒田辰秋さんを訪ねていったら、 こんな話をされたんです。

「この仕事は足を踏み入れたら、もう地獄かもしれない。  だけどやるなら、誰になんと言われてもやるんだ」 と。

その時に、 「工芸の仕事はひたすら“運・鈍・根”に尽きる」 と言われました。

工芸の仕事は鈍い、「鈍」なものですよ。 だけどコツコツコツコツ弛まずやる。 誰の助けも受けずにやる。これができるかと。 もうできるも何も、それしかない。 でなければ一家心中しなきゃならないような状態ですから、 「やります」と言いました。

「運」はね、他にいろんな選択肢があるわけじゃなく、 自分にはこの道しかないと思い込んで、 ただひたすらやりなさいと。 「根」は粘り強く、一つ事を繰り返し繰り返しやること。 工芸は画家のようにパッとインスピレーションがおりてきて 筆を走らせるのではなくコツコツコツコツやるものだと。 鈍も根もコツコツですね。

なぜコツコツが大切かといえば、 材料と親しくなるからです。 そのためには時間がかかるんですよ。 私であれば、糸や染めなどの性質を知って仲良くし、 その材質に持ち上げてもらって仕事をしている。 だから自分が何かをつくるよりも前に、 まずものがあるんです。ものが最初なんです。 私がよく「植物から色をいただく」と言うのもそのことで、 ものを敬い、自然と自分が溶け合う。 それに時間がかかるんじゃないでしょうか。
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最近の森のようちえんの様子